医療法人設立Q&A
- 一人医師医療法人とは何ですか。
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当初医療法人の設立は非常に厳しい設立要件がありましたが、昭和60年(1985年)の医療法改正により設立要件が規制緩和され、医師/歯科医師1名から医療法人が設立できるようになり多くの診療所が医療法人化するきっかけとなりました。 これは、医師個人の家計と診療所の経理とを分離することによって診療所の設備、機能の充実を図るとともに、経営基盤を強化し診療所経営の近代化、合理化を図ることで、プライマリ・ケアという地域医療の充実を目指したものです。
- 医療法人を設立したいのですが、資格など条件を教えてください。
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医療法人の設立は、医師または歯科医師が理事長となり、その他理事が2名以上(理事長を合わせて合計3名以上)、理事の経営を監視監督する監事が1名以上必要です。この役員については就任に条件があり、「成年被後見人または被保佐人」「医療法等の医事に関する法令に過去2年間以内に違反があった場合」「禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わり、または執行猶予期間中の場合」は役員に就任できません。 また、医療法人設立認可にあたっては事業の確実性・継続性から2ヶ月分の運転資金と医業用資産の拠出が必要です。また多くの都道府県で過去2年間以上の運営実績を確定申告書で確認されます。
- 医療法人はいつでも設立できるのですか。
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医療法人の設立は都道府県知事等の認可制になっています。認可申請は年2回が一般的ですが、年3回や年1回のところもあります。また設立申請のための説明会や事前審査等もありますので、法人設立の3~4ヶ月ほど前から準備をすること必要です。
- 法人の名前は自由に決めていいのですか。
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医療法人の名称は「医療法人○○会」という名称が多く一般的ですが、この○○会という名称は法律上の規定ではありませんので強制されるものではなく、医療法人設立時の公告が可能なものであれば問題ありません。ただし、過大な印象を持たせる「グループ」「センター」等の名称、「国」「地方公共団体」等の名称、「内科会」「外科会」のように診療科そのものを名称とすること、「エステ」「インプラント」等は認められません。都道府県によっては○○会の形式にするよう指導されることもありますし、あまり奇抜な名称では社会的信用面で問題をかかえる可能性もありますので、医療法人として妥当な名称をおすすめいたします。
- 法人設立にあたっての財産の拠出はどのくらい必要なのですか。
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医療法人設立の拠出は病院(診療所)の規模や設備によりケースバイケースですが、資産要件のひとつとして2ヶ月分以上の運転資金を有していること、とされています。これは国民健康保険や社会保険の保険請求分が2ヶ月遅れで入金されることから、法人を設立してすぐに資金ショートを起こさないようにするための条件として必要になります。 また、医療法人設立前に個人医院を開設されていた場合、医業に使用していた資産は原則として全て拠出の対象ですので、医業用資産+運転資金2か月分が医療法人設立にあたって求められる額とお考えください。
- 個人で2年間の開業実績が必要なのは本当ですか。
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開業と同時に医療法人を設立することは可能です(東京都等)。しかし都道府県によっては2年間の開業実績を求めるところがありますので、設立にあたっては確認のうえで手続をとられることをおすすめします。
- 賃貸物件で開業したいのですが、どうしたら良いですか。
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医療法人の設立にあたっては、医業という性質上一定期間安定的に開業することが求められます。 賃貸物件で開業をする場合には10年程度の長期間にわたる確実な賃貸借契約が求められます。しかし賃貸借契約は2年間の契約期間が一般的に多く、いきなり10年間の契約は貸主が嫌がる場合があります。ビルなどへの入居で開業・法人設立するような場合には2年間等の賃貸契約書と長期にわたっての賃貸借を約する文書を用意して対応を検討いたします。
- 医師(歯科医師)以外は理事長になれないのですか。
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医療法人の理事長に関しては「医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。ただし、都道府県知事の認可を受けた場合は、医師又は歯科医師でない理事のうちから選出することができる。」(医療法第46条の3)と規定されており、原則としては医師(歯科医師)でなければなりません。医師、歯科医師でない者を理事長とすることも、特別な事情がある場合においてのみ認められることもありますが、実務上は非常に稀なケースといえます。
- 理事に就任するための資格はありますか。
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理事長は原則、医師または歯科医師であることが必要です。また、分院の管理者(分院長)は理事になることが求められます。理事長、理事は、社員から選任され就任することが原則ですが、必要に応じて社員でない者を選任することも可能です。なお、公務員の方は原則として役員に就任できません(公務員法)。
- 監事に就任するための資格はありますか。
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監事は、理事や病医院の職員を兼任できません。他の役員の親族関係にある者(大阪府では3親等内の親族以外の人が妥当と指導しています)は就任できません。また、他医療法人の理事や関与税理士、顧問弁護士等の利害関係が深い場合も就任できませんのでご注意ください。
- 債務の引継ぎとは何ですか。
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債務引継ぎとは、例えば個人医院を開設する際に調達した金融機関からの借入金やリース会社からのリース債務等を、医療法人化の際に医療法人からの返済や支払ができるようにするものです。この場合の注意点は、拠出(寄附)財産の取得時に発生した負債は、医療法人に引き継ぐことができますが、運転資金や一括償却資産や消耗品類の取得に要した費用に係わる負債は、引き継ぐことができません。また、金融機関によっては借入金全額を医療用機器等の購入に充てた場合に限って引継ぎを承認する場合がありますので、医療法人化後に借入金返済やリース料支払いを医療法人から支出したいときには、個人医院開設時から当事務所のコンサルティングをご利用ください。
- 個人医院を開設する際に、両親から借金をしました。医療法人化にあたってこの借金の取扱いを教えてください。
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運転資金に用いられた債務は引継ぎできませんが、ご両親に限らずどなたからの借入金であっても、医院開設のための設備等の導入に支払われたものでしたら債務引継ぎは可能です。 但し、当然ですが有効な金銭消費貸借契約書と返済予定表等明細書があり、現に返済が行われていることの根拠書類があることが条件です。書類がきちんと整っていれば、金融機関からの借入と同様に引継可能です。
- 医療法人化すると、税金の申告手続はどのように変更になりますか。
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個人医院の場合、毎年1月~12月を事業年度とし、翌年の確定申告時期(例年3月15日まで)に所得税の確定申告と所得税納税を行います。 対して、医療法人では事業年度を任意に設定できるため、多くの法人で4月1日から翌年3月31日までを単年度とし5月末日までの法人税申告と法人税納税をします。この事業年度は任意に設定できますので、個人医院からスムーズに移行するために1月~12月を選択される方もありますし、事業年度中の経営の柔軟性を最大限に活用するため10月~翌年9月に設定される方もいます。 事業年度の設定は自由ですが重要なポイントですので、十分な検討と準備が必要です。医療法人化の際には、ぜひ当事務所にご依頼ください。
- 医療法人化すると税金はどのように変わりますか。
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個人医院の経営は所謂個人事業ですので、医業収入から諸経費を差し引いた利益(所得)に対し所得税が課税されます。この所得税は超過累進課税制度ですので、一定の所得額に応じて段階的に税率が高くなるのが特徴です。 対して医療法人の場合は、診療所は法人運営となりますので、診療報酬等の医業収入は法人に帰属し諸経費を差し引いた税引き前利益に対して法人税等が課せられます。法人税率は定率のため税率が高くなりません。理事長先生は法人が経費として支払った役員報酬を所得として得ることになり、この部分に関し所得税等が課せられることになります。 院長先生は医療法人の理事長に、多くの場合の家族は理事に就任すればいずれもが給与所得者となって所得が分散されます。
- 現在個人医院を経営しています。医療法人にすると家族全体の家計への影響と家族従業員の所得はどうなりますか。
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医療法人社団は最低理事が3名以上、監事が1名以上必要です。例えば、院長が理事長に就任し、配偶者が常務理事となって、他に家族が理事に就任するスキームによって医療法人を設立する事例はたくさんあります。この場合、理事長は給与所得者となりますので、役員報酬から給与所得控除を差し引いた金額に所得税が課税されます。この給与所得控除に節税効果があります。 配偶者は理事長と同じく給与所得を得ます。この場合、個人医院の経営に関連し青色申告の専従者だったときには、法人の常務理事に就任することでより多くの給与を得ることが可能です。 さらに理事長の経営負担が常務理事に分担されることによって、個人医院時の所得よりも少なめの報酬額になる筈ですから、所得額が超過累進課税率上で少なくなることにより、家計全体での税負担額が少なくなることが予期できます。
- 医療法人化した場合の消費税の課税はどのようになりますか。
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医療法人での資本金にあたるものは拠出する資産総額から引継ぐ負債を差し引いた純資産です。この純資産額(資産の総額)が1,000万円以上の場合は、仮に課税売上(自由診療の報酬部分)高が1,000万円未満であっても課税事業者です。対して、1,000万円未満は免税事業者です。
- 診療所で使用している土地・建物を個人で所有しています。診療所兼自宅なのですが、医療法人に拠出しなければならないのでしょうか。
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現在の診療所が診療所兼自宅の場合、多くの医療法人化手続においては医療法人に拠出せず、理事長個人と医療法人との間で賃貸借契約を結ぶことになります。この際の不動産賃料は周辺相場(近傍類似)により設定されます。
- ビル・マンションの一室で診療所を開いています。医療法人にすることはできますか。
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ビルのテナントや賃貸マンションの一室が診療所の場合、ビルやマンションの賃貸借契約または利用規約によって規制を受けない限り、医療法人を設立することは可能です。この場合、物件を安定的に利用できることが求められますので、10年程度の賃貸借を認める旨の覚書を物件の所有者(貸主)との間で結ぶことが必要です。
- 医療法人設立に必要となる手続等の実費を教えてください。
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医療法人はNPO法人や宗教法人と同じく公益法人の一種であるため、法人設立登記のための登録免許税は非課税となっています。また、医療法人設立認可申請の認可料もかかりません。 しかし、医療法人設立認可申請時に必要となる不動産登記簿謄本や預金残高証明書、印鑑証明書等の公的証明書を取得する際の手数料は必要です。 また、保健所での診療所開設許可申請料がかかります(都道府県により異なりますが、おおむね2万円弱です)。 また、医療法人の実印や銀行印、会計帳簿類に押印する角印、ゴム印等を作成する必要があります。その他、各取引先での名義変更等の諸手続に手数料等が発生する場合があります。
- 社会保険が強制加入と聞きましたが、どうなんでしょうか。
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医療法人は法人ですので、社会保険関係(健康保険、厚生年金)や労働保険関係(労災保険、雇用保険)は強制加入が原則です。 但し、個人医院の場合、健康保険は医師・歯科医師国民健康保険に加入されているケースが多く、医療法人化後も理事長(院長)自身は医師国保への継続加入が可能です。この場合は、厚生年金のみの加入ということになります。従って健康保険は従来通りで医師国民健康保険組合に、社会保険事務所に健康保険適用除外申請を行い、厚生年金は社会保険事務所に申請を行います。
- 医療法人の認可が下りたら、すぐに法人医院にしてもよいのですか。
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医療法人設立認可は、医療法人を設立するための要件を具備した状態です。医療法人が法人格を得るためには、認可を得た後で医療法人設立登記申請が必要となります。設立登記につきましても、当事務所におまかせ下さい。
- 医療法人化後に必要となる手続を教えてください。
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医療法人設立登記が終了したら、医療法人の法人格が得られて法人事業がスタートすることになります。しかしこれは法律上のことで、実際に法人病医院としてスタートするためには、保健所に対する開設許可申請手続をなして許可を得てからでなければなりません。この許可手続は2~4週間程度かかりますので、この点も事前に綿密な打合せと準備が大切になる部分です。
- 医療法人を運営していくときに必要となる手続を教えてください。
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医療法人は各事業年度が終了し決算が確定したら社員総会の議決を経て資産の総額を登記します。 また事業年度終了後2ヶ月以内に、法人税の申告と納税が必要です。また3ヶ月以内には所管する監督官庁に事業報告等届出(いわゆる決算届)をします。 役員の任期は2年となっていますので、役員任期の場合には役員の重任、役員の変更に拘わらず役員変更届が必要です。 その他、医療法人の名称を変更したい、医療法人の主たる事務所を移転したい、分院を開設したい等の場合には、定款変更の認可申請が必要となります。定款変更認可申請は医療法人設立と同等の労力が発生し非常に時間がかかる手続のため、特に分院の開設のように開設時期のご希望がある場合には、計画段階から十分な打合せと準備が必要です。